「大潮は釣れる」は本当か|有明海で正反対のことを言われた話

神奈川で釣りをしていると「あー長潮か、期待薄だな」という会話をよく聞きます。大潮や中潮の日は潮がよく動いて魚の活性が上がる、小潮や長潮は潮が動かないから釣れにくい。釣り人の間では常識とされている話です。

ところが有明海で仕立て船を予約したとき、船長にこう言われました。

「大潮だから釣れないと思いますよ」

大潮なのに釣れない。私の知っている常識と正反対でした。実際に釣りをしてみると、仕掛けを底に着けた瞬間に流されて、まともに釣りにならない。仕掛けのロストばかりでほとんど釣果がありませんでした。

同じ「大潮」という日に、神奈川では期待し、有明海では諦める。なぜ正反対のことが起きるのか。


潮が動くと魚が釣れる、という仕組み

まず「大潮は釣れる」の根拠を確認します。

満潮と干潮の差が大きい大潮の日は、海水の移動量が多く、潮の流れが速くなります。潮が動くとプランクトンが流され、プランクトンを追って小魚が動き、小魚を追って大型魚の活性が上がる。食物連鎖全体が動き出すという仕組みです。

逆に小潮・長潮は干満差が小さく、潮の動きが緩やかです。プランクトンが動きにくく、食物連鎖のスイッチが入りにくい。だから「小潮は釣れにくい」と言われる。

ここまでは多くの釣りサイトが書いている話です。ただこの説明には前提条件があります。


前提条件:「適度に動く」がポイントです

「潮が動く=魚が釣れる」は「適度に動く場合」に限った話です。

潮が速すぎると話が変わります。魚は泳ぎ続けるだけでエネルギーを使い、餌を追う余裕がなくなる。遊泳力の弱い小型魚はなおさらです。コマセを撒いてもあっという間に流されてしまい、魚を足止めできない。仕掛けも流されて底に定位しない。

つまり「潮が動くほど良い」には上限がある。動きすぎると釣りそのものが成立しなくなります。


有明海で起きていたこと

有明海は日本で最も干満差が大きい海です。

大潮時の最大干満差は約6m。2階建ての建物がすっぽり水没するほどの潮位変化が半日で起きます。神奈川周辺の太平洋側が干満差1.5〜2m程度であることを考えると、3〜4倍の潮位差があることになります。

有明海がこれほど干満差が大きい理由は地形です。南北約100kmの細長い湾で、外側の東シナ海から入り込んだ海水が湾の形に沿って増幅される。バケツの水を揺らすと端で大きく揺れるのと同じ原理で、湾奥に向かうほど潮位差が大きくなります。

大潮の日、この巨大な潮位差が生み出す潮流の中に仕掛けを落としたらどうなるか。想像の通りです。鳴門の渦潮の中に仕掛けを入れるようなもので、オモリが底に着く前に流されてしまう。船長の「釣れないと思いますよ」は経験に基づいた正確な予測でした。


場所によって「良い潮回り」は違う

この経験から分かるのは、「大潮=釣れる」は場所による、ということです。

干満差が小さい内湾や、潮の流れが穏やかな堤防では、大潮の日に潮が適度に動いて魚の活性が上がる。神奈川の堤防や相模湾のサーフではこのパターンが成立しやすい。

干満差が大きい有明海や、潮流がもともと速い瀬戸内海の一部では、大潮の日は潮が速すぎて釣りにならないことがある。こういう場所ではむしろ小潮や中潮の方が仕掛けが安定して釣りやすい。

外洋に面した磯は、潮の流れが複雑で一概に言えません。潮通しが良い磯は常にある程度の流れがあるため、大潮でも小潮でも釣りが成立する場所があります。


Tsuricastカバーエリアの潮の特徴

九十九里から大阪湾まで、サービス範囲内でも潮の性格が異なります。自分が通う釣り場がどのタイプかを知っておくと、潮回りの判断に使えます。

九十九里・外房 外洋に直接面しているため、潮汐の影響より波やうねりの影響が大きい。潮回りよりも天候と波高で釣行判断をした方が精度が上がる場所です。

東京湾(内湾) 三方を陸地に囲まれた閉鎖性の内湾で、干満差は約1.5m。湾口の浦賀水道は潮流が速く、湾奥は流れが緩やかです。大潮・中潮の潮が動くタイミングが効きやすい典型的なエリアです。

相模湾 南に開いた外洋性の湾で、黒潮の影響を受けます。日本で2番目に深い湾でもあり、沿岸と沖で潮の動きが異なります。堤防やサーフでは潮回りの影響を感じやすいですが、沖合は黒潮の影響の方が大きい。

駿河湾 日本で最も深い湾(最深部2,000m超)で、黒潮が直接入り込みます。沿岸部の潮汐は太平洋側の標準的な干満差ですが、深場では黒潮の流路変化が魚の動きに直結します。

伊勢湾・三河湾 閉鎖性の内湾で、干満差は東京湾よりやや大きめです。大潮の日に青潮が発生しやすい構造でもあり、潮が動く日が良い日とは限りません。三河湾・伊勢湾の天気の読み方も参考にしてください。

大阪湾 紀淡海峡と明石海峡で外洋・瀬戸内海とつながっています。明石海峡付近は潮流が非常に速く、大潮の日は有明海と似た「速すぎて釣りにならない」状況が起きることがあります。湾奥の堤防は穏やかですが、海峡に近づくほど潮回りの影響が強くなります。


「上げ3分下げ7分」の意味

「上げ3分下げ7分が釣れる」という格言があります。干潮から満潮に向かう途中の3割あたり、満潮から干潮に向かう途中の7割あたりが時合いだという経験則です。

これも「潮が動き始めるタイミング」と「潮が止まる直前のタイミング」を指していて、潮流が適度な速さになる時間帯を言い表しています。満潮・干潮のピークは潮の動きが止まる(潮止まり)ため、魚の活性が落ちやすい。

ただしこれも場所次第です。有明海のような干満差が大きい場所では、「上げ3分」の時点ですでに激流になっている可能性がある。格言が成立するのは、干満差が穏やかな場所での話です。


日本海側は別の話

太平洋側と有明海の話をしましたが、日本海側はさらに事情が異なります。

日本海側の干満差は数十cm程度で、太平洋側の数分の1です。潮の動きが極端に小さいため、「大潮か小潮か」という潮回りの判断がそもそもあまり意味を持ちません。日本海側の釣りでは、潮回りよりも風向き・天候・水温の方が釣果に影響しやすい。

同じ日本の海でも、太平洋側・有明海・日本海側で潮の影響度がまったく違う。「大潮は釣れる」が全国共通の法則ではないことが分かります。


潮回りより「潮流の速さ」を見る

私の結論です。

大潮か小潮かという潮回りは、釣果の「大まかな傾向」を示すものであって、釣り場ごとの絶対的な法則ではありません。同じ大潮でも場所によって潮流の速さが違い、速すぎれば逆効果になる。

釣り人が意識すべきなのは、自分が通う釣り場で「潮が適度に動いている時間帯」がいつなのかです。

その釣り場の干満差がどの程度か。大潮の日に潮が速すぎないか。潮止まりの前後に時合いが来るのか、潮が動いている最中が良いのか。これは場所ごとに違うので、自分で通って記録するしかありません。

釣行ノートの付け方で水温と潮周りを記録することを勧めましたが、潮回りと釣果の関係もまた、記録を積み重ねて初めて見えてくるパターンです。

Tsuricastでは各スポットの潮汐データを提供しています。釣行前に確認してみてください。

釣り場の潮汐を確認する →


本記事の潮汐に関する情報は気象庁の公開データおよび各種公開資料をもとにしています。潮回りと釣果の関係は地域・魚種・釣り方によって異なります。