近くが見えにくくなってきた釣り人の話|老眼と釣りの付き合い方
ある日、サルカンにラインを結ぼうとして手が止まりました。
糸の先端が見えない。ガイドの穴にラインを通そうとして、何度も外す。ヘッドライトを当てても、焦点が合わない。若い頃は暗がりでも感覚だけで結べていたのに。
釣り歴の長い人なら、この瞬間に覚えがあると思います。40代の半ばくらいから、手元の作業が急にきつくなる。
「疲れているだけ」「ライトが暗い」「糸が細すぎるんだ」。いろいろ理由をつけたくなりますが、それ老眼です。
ただし近くが見えにくい原因は老眼だけとは限りません。白内障でも見え方が変わることがあります。若年性白内障は40代でも発症します。白内障は手術で水晶体を人工レンズに置き換えることで視界がクリアになりますが、人工レンズはピント調節ができないため、術後は老眼と同じ状態になるのが一般的です。見え方の変化が気になったら、まず眼科を受診してください。
釣りは手元の細かい作業が多い趣味です。糸を結ぶ・針にエサをつける・ガイドにラインを通す・仕掛けを交換する。どれも近距離の視力に頼る作業で、老眼の影響を受けやすい。
私自身がどう対応してきたか、実用的な話をします。
釣りで困る場面を具体的に
老眼が進んで最初に困るのは仕掛け作りです。
PEラインとリーダーの結束、サルカンへのユニノット、針へのハリス結び。どれも1mm以下の糸先を正確に操作する作業です。明るい場所でも集中力がいるのに、夕マズメの薄暗い中では手元がまったく見えなくなります。
ガイドにラインを通す作業も地味に厳しい。穂先のガイドは直径数ミリです。何度やっても入らず、竿をぐるぐる回しながら格闘している中年の釣り人を見かけたら、それは私かもしれません。
ベイトリールのブレーキダイヤルの数字が読めないという声もあります。夜釣りでは刻印された小さな数字がまったく見えず、指の感触だけで合わせるしかない。
竿先のアタリも見えにくくなります。シロギスの繊細な穂先の動きや、夜釣りのケミホタルの微妙な変化。「あれ、今アタリだったのか」と思う瞬間が増えてきたら、目の変化を疑ってもいいかもしれません。
遠近両用メガネという選択肢
私が行き着いたのは遠近両用メガネです。
遠くを見るときは上部のレンズ、手元を見るときは下部のレンズが使われる累進レンズで、メガネをかけ替えずに遠くも手元も見えます。車の運転も手元の仕掛け結びもメガネをいじらずに対応できる。
遠中近に対応したタイプもあります。中間距離(1〜2m程度)にもピントが合うレンズで、竿先の距離がちょうど中間距離に入ります。価格は遠近両用より高くなりますが、釣りとの相性は良い。
ただ遠近両用メガネにはデメリットもあります。レンズの端に歪みがあり、足元を見たときに地面が揺れて見えることがある。テトラや磯の上では足元の歪みが怖い。慣れるまで1〜2週間かかります。
偏光サングラスとの併用も考える必要があります。度付きの偏光サングラスを作るか、偏光サングラスの上にクリップオンの老眼レンズをつけるか。釣り場で使う前提なら、眼鏡店で「釣りで使います」と伝えて相談してください。用途を伝えることで、レンズの種類や度数の設定が変わります。
メガネ以外の対策
メガネを変えなくても、釣りの中でできる工夫があります。
市販の完成仕掛けを使う
現場で結ぶ回数を減らすのが最も直接的な対策です。サビキ仕掛け・投げ釣りのセット仕掛けなど、完成品を使えば現場での結びは最小限になります。リーダーの結束やスナップへの接続だけ自宅で済ませておけば、釣り場でやることが減ります。
自宅で仕掛けを作っておく
明るく作業しやすい自宅で、仕掛けを仕上げておく。替えの仕掛けも2〜3セット作っておけば、現場でのやり直しが減ります。
針結び器を使う
針とハリスを自動で結んでくれる道具です。老眼対策としてだけでなく、均一な結びができるため結束強度も安定します。
ヘッドライトを良いものにする
夜釣りの手元作業は、ライトの明るさと照射範囲で大きく変わります。300ルーメン以上のヘッドライトと、手元を照らす赤色サブライトがあると夜の仕掛け交換がだいぶ楽になります。
太い糸・大きい針を許容する
極端な話ですが、PEライン0.4号を0.8号に上げるだけで作業性は変わります。針も小さいものにこだわりすぎず、扱いやすいサイズを選ぶのも実用的な判断です。繊細な仕掛けで釣果を追うか、扱える仕掛けで確実に釣るか。年齢に合わせた妥協点を見つけることも技術のうちです。
夜釣りが最大の難関
老眼の釣り人にとって、夜釣りは最大の試練です。
ヘッドライトで手元を照らしても、ピントが合わない。ケミホタルの微妙な動きが追えない。仕掛けが絡んだときの処理に時間がかかる。「まぁいいか」と仕掛け交換を諦めてそのまま釣り続けた結果、糸ヨレでバラした経験がある人は少なくないと思います。
夜のキス釣り・タチウオ・アジングなど、夜がメインの釣り種では老眼対策をどこまでやるかが釣果に直結します。現場で手間取る時間は、竿を出している時間を削ります。
受け入れて対応する
目の老化は誰にでも起きます。止められません。
ただ釣りをやめる理由にはなりません。メガネを合わせる、仕掛けを自宅で作る、道具の工夫で補う。やれることは多い。
知り合いに遠中近対応のレンズを入れている釣り人がいますが、「車の運転も仕掛け結びもメガネをいじらずに対応できる」と言っていました。投資としては安くないですが、釣りを長く続けるための道具と考えれば、ロッドやリールへの投資と同じです。
鮒に始まり鮒に終わるという格言がありますが、目の衰えもまた釣りスタイルを変えていくきっかけのひとつかもしれません。
老眼の進行度や適切なレンズの選択は個人差があります。眼鏡の処方は眼科医の検査を受けた上で、眼鏡店にご相談ください。