釣った魚を人にあげるとき何をしておくか|お裾分けの下ごしらえ

その人、魚さばけますか

たくさん釣れた日、食べきれない分を誰かにあげたくなることがあります。お店でも「釣れすぎちゃって、ご近所にあげようと思うんですけど」と相談されることがあるんですが、わたしがまず聞くのは「相手の方は魚をさばける方ですか」です。

釣り人同士なら話は早い。尾頭付きで渡しても喜ばれます。内臓もウロコもそのまま、クーラーボックスから出してビニール袋に入れて「はい、今日の」で済む。相手も道具を持っているし、手順も分かっている。

問題は相手が釣りをしない人の場合です。

そもそも釣りすぎなければお裾分けの悩みは発生しないんですが、魚が釣れている最中にその理性を保てる釣り人を、わたしはまだ見たことがありません。


丸ごと渡すと相手が困る

釣りをしない人にとって、ウロコと内臓がついた魚は「どうすればいいか分からないもの」です。

お店の常連さんから聞いた話ですが、アジを10匹ほど丸ごと隣の家に持って行ったら、翌日「ありがとう、でもどうやって食べるか分からなくて」と返されたそうです。悪気はない。本当に分からなかったんです。

魚をさばいたことがない人は意外と多い。包丁で内臓を出す作業に抵抗がある人もいます。釣り人からすると当たり前の工程が、相手にとっては未知の作業。ここをこちらが想像できるかどうかで、お裾分けが喜ばれるか迷惑になるかが分かれます。


そもそも「素材で渡す」だけがお裾分けじゃない

ここが大事なところなんですが、お裾分けには3つの形があります。

素材で渡す。 ウロコ・内臓を処理して、あるいは三枚におろして渡す。相手が料理をする人ならこれで十分です。「焼くだけ」「揚げるだけ」の状態にしておけば、受け取る側のハードルはだいぶ下がります。お店に来る常連さんにキス釣りの名人がいるんですが、この方はシロギスを釣ったら天ぷら用に開いて、1回分ずつラップで包んで冷凍して、知り合いの料理屋さんに渡しているそうです。もらったほうは解凍して衣をつけて揚げるだけ。開いた状態で冷凍するという一手間が、受け取る側の手間をほぼゼロにしている。この人はお裾分けの本質を分かっていると思います。相手の台所に立って考えている。

調理済みで渡す。 もし近所に渡せる相手がいるなら、揚げたり焼いたりした状態で持っていくのが実はいちばん喜ばれます。アジが大量に釣れた日に、アジフライにして揚げたてを持っていく。「スープの冷めない距離」ならぬ「フライが冷めない距離」に相手がいれば成立します。相手は皿に盛るだけ。さばけるかどうかを気にする必要もない。

その場で一緒に食べてしまう。 実はこれがいちばん確実です。渡すのではなく、一緒に食べる。持ち帰りの保冷も必要ないし、相手がさばけるかどうかも関係ない。

先輩が子ども向けの釣り行事をやるとき、朝から11時くらいまで釣りをして、釣れたらその場で天ぷらパーティーにするそうです。釣れなかった場合の保険として、事前に開いて冷凍しておいた自分の釣果を持参しています。子どもたちに「各自持ち帰りましょう」は無理ですからね。天ぷらだけではお腹いっぱいにならないので、オードブルも用意するという周到さ。

「お裾分け」という言葉にこだわると素材を渡すことばかり考えてしまいますが、一緒に食べるのも立派なお裾分けです。


貰い手の目星は釣る前につけておく

たくさん釣れてから「誰にあげよう」と考え始めると、だいたいうまくいきません。持って帰った魚が冷蔵庫を圧迫して、慌てて声をかけて、断られて、結局冷凍庫がパンパンになる。

お裾分けがうまい人は、釣りに行く前から貰い手の目星をつけています。「今度キスが釣れたら〇〇さんに持っていこう」と決めておけば、釣り場での処理も「何匹を自分用、何匹をあげる用」と振り分けられるし、保冷の準備も事前にできます。

相手に事前に声をかけておくのもひとつの方法です。「今度釣りに行くんですけど、もし釣れたら少し持っていきましょうか」。こう聞いておけば、相手が断りたければ断れるし、楽しみにしてくれるなら喜んで受け取ってくれます。

ただし「釣りに行くからお裾分け期待しといて!」と宣言して出かけてボウズで帰ってくると、とても気まずい。事前の声かけは「もし釣れたら」を必ずつけてください。


渡すときに添えること

素材で渡す場合は保冷と一言を忘れないでください。ジップロックに入れて、保冷剤を添えて、「今日中に食べるか、冷凍してください」と伝える。魚を受け取った人がいちばん困るのは「これいつまでに食べればいいの」が分からないことです。

量は2〜3人で食べきれる分に留めます。「たくさんあるから」と大量に渡すと、相手は断りにくいけど内心困っている場合がある。少なめに渡して、次も受け取ってもらえる関係を続けるほうがお互いにとっていい。


真鯛を電車に忘れた友人の話

ちょっと脱線します。

以前、釣りをしたことがない友人と海上釣り堀に行きました。結果は2人ともボウズだったんですが、釣り堀のサービスで真鯛を1尾ずついただきました。

帰宅してからわたしが2尾ともおろして、友人の分は切り身にしてジップロックに入れて保冷バッグに詰めて持たせました。「今日中に冷蔵庫に入れてね」と言って送り出したんですが、友人は打ち上げのビールで酔っ払っていました。

翌朝、連絡が来ました。「保冷バッグ、電車に忘れた」。

駅の忘れ物センターに真鯛の切り身が届いているかと思うと、駅員さんに申し訳ない気持ちになりました。見つかったかどうかは聞いていません。聞きたくなかった。

この話の教訓は、お裾分けは渡したら終わりではなく、相手がちゃんと持って帰れるところまでがこちらの責任だということです。


相手 渡し方 一言
釣り人 丸ごとOK 不要
料理をする人 ウロコ・内臓を処理して渡す 「焼きでも煮付けでも」
料理をしない人 三枚おろし or 切り身+保冷剤 「焼くだけで食べられます」
酔っている人 胃袋に入れる 「持って帰れないでしょ」

葵ちゃん

葵ちゃんのまとめ

わたしはマンション住まいで近所付き合いが薄いので、実はお裾分けの経験がそんなに多くありません。釣った魚は自分で食べるか、釣り場で隣の人にあげるかのどちらかです。

でも接客で「あげたいんだけど」という相談を受けるたびに思うのは、お裾分けの本質は魚ではなくて気遣いだということ。相手の冷蔵庫の容量と、相手の包丁の腕前を想像できるかどうか。キス釣りの名人が天ぷら用に開いて渡しているのは、魚の処理がうまいのではなくて、気遣いがうまいんです。